killer7
知人


いつもなら扉にかけられている錠がこれ見よがしに開いている。
躊躇なくノブに手をかけ、ゆっくりと押した。

妙に明るい部屋の中で車椅子に腰掛けた人影は、入ってきた男に一瞥を送っただけで卓上のチェス盤に目を戻した。
ダンは部屋の中央を横切って老人の前に立つと不遜に首を傾げる。

「呼んだのはあんたか。珍しいこともあるもんだ」
「私は無駄話などしたくない。用があるのはお前の方だろう」

老人の視線は相変わらず盤の上に注がれている。
ダンは向かい合う形で置かれた椅子に腰掛けた。
ようやく顔をあげた老人が、ゆっくりと諭すような口調で言う。

「そこはお前の席ではない」

鼻で笑って足を組む。銃を握ったままの右腕をだらりと下げ、自重を背もたれに預ける。
「無駄話は嫌いなんだろ?」

ガルシアンから聞いたが、とハーマンは駒をひとつ取る。
「一体、なにをそんなに拗ねているんだ」
老人の手から放られた駒は力無くダンの目の前に落ちた。

歩兵。

左手にそれを取って手中で弄びながら、ダンが片眉を上げる。
「これでも充分殺れる」
老人は鷹揚に頷く。
「当然だな。だが」
年期の入った指がコツコツ、と盤を叩いた。
「その駒が、ルールに干渉するのは不可能だ」
広い部屋に低い声が響く。

短い沈黙。
駒を運ぶ音がそれを破る。

ハーマンは指を組むと両肘をテーブルに付く。
「私は期待しているんだよ」
穏やかな声。

ダンは片手を広げて笑う。駒が床に落ちて軽い音を響かせた。
同時に右手を前に上げ、銃器の引き金を一つ引く。

轟音の後には、先ほどよりも深い沈黙が落ちる。
日が射し込む部屋は白々しく明るい。

「これから人と待ち合わせている。外してくれないか」

額の穴から向こう側の景色を覗かせながら、ハーマンは再び盤の上に視線を戻す。
ダンは盤上で動く老人の手を見ている。クイーン。タワー。ビショップ。

立ち上がり、部屋の外へ出た。湿度の違う空気が身を包む。

振り返って扉を見ると、そこにはいつもの錠がかかっている。
ご丁寧にノブすら跡形もなく消えていた。
ダンはその場を離れる。

外界へと繋がる別の扉の前に立ち、ノブを回した。
乱暴なその所作はなぜか祈りにも似ていた。

一歩、扉の外へと踏み出す。
黒い姿は熱と風と幻想で調和の取れた世界を乱し、異物のように立ち止まる。

やがて光の中に黒い姿も溶け、あとには閉ざされた扉だけが無表情に沈黙している。





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蛇足(反転)
ハーマンを殺ろうとしていることをたしなめられる暴君ってことで一つ。
私の萌えポイント→大将に小者扱いされてる暴君。好きだ…!
格好付けてもいくら強くても所詮は負け戦。
それを自覚してるからこそ暴君は品位を持って人を殺るのかなと。
ていうかこれじゃ小者すぎたか。

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