killer7
コーヒー・カップに終末


コーヒーの不味いダイナーはいくらでも席が空いている。
それなのにいつも、嫌がらせにしか思えない距離にカーティスは座る。

店の最奥にある向かい合ったテーブル席。
通りに面した窓から射し込む西日が眩しい。

目の前に座りながら一度もダンを見ようとしない彼は、 店の時計を確認するとコーヒーの代金をテーブルに置く。真新しいコインの表面に陽が照り返している。

「さて・・・もう一仕事だ」
「・・・今日何人目だ」
「5人」
ダンは鼻で笑うと、フォークで細切れの肉を刺す。
「そのうち、仕事に喰われるぜ・・・」
「出された料理は残さず食べるものだ」
「喰い尽くせるのか?貴様が?」
「それが人生に対する礼儀だよ」
ダンは手を止め、眉を上げてカーティスを見る。
「そんなマナーじゃ、いつか愛想つかされるぜ?そしたら・・・どうする?」

「それを、私に聞くのか?」

無表情な顔は人間に見えない。
飲まれていないコーヒーが冷めていく。
ダンはフォークをテーブルに放った。それはカラカラと銀色の軌跡を残して床に落ちる。

「あんたにも、恐怖があるか?」
「当然だろう」
「なぁ、まともな人間のふりして虚しくないか?」

ダニー、とカーティスが低く呟き顔を上げる。
薄い瞳の色がさらに薄くなる。

「お前の不安は、お前だけのものだ。大事にするんだな・・・・・・」
ダンは目を細めて笑う。
嘲笑ではないその顔を、カーティスは初めて見た。

「あんたの恐怖も、あんただけのものか?」

答える代わりに、カーティスはフォークを拾ってダンの前に置く。
慈悲深い笑みを浮かべる口元。




あの日が、世界の終わりだったと知っていたか。




「知っているか?人生を振り返ると人は死ぬ」

どこかで見た光景。明るすぎる照明が濃い影をつくる。
この白い部屋は、あの部屋よりも陰気だ。

「だったら・・・てめぇのコレは自殺だろ?わざとらしく身辺整理しやがって」

相応に年を経て、髪を白くした男はあの目で弟子を見る。
それはやはり人間の目ではない。

「お前は、まだ過去を持っているか?人だったことを覚えているか?ちゃんと、私を憎んでいるか?」

男の瞳が、あの暗い日を、あのコーヒーの味を思い出させる。
記憶は必要ない。憎悪も共感も憐憫もいらない。
そんなものを持って、この先の永劫を生きろというのか。

「貴様は過去の亡霊だ・・・俺の目の前から失せろ」

「あの日を殺せるのは、それを正面から見据えた人間だけだ」

「悪趣味なジジィだ。・・・どうしても、俺に殺されたいか」

「お前ならできるさ。殺りかたは、知ってるだろう・・・?」

世界という名の籠は、どうすれば壊せる?答えは誰が持っている?
少しずつ水で満たされていく水槽に、浸かっているのは誰だった?

「いいぜ・・・貴様の睡眠薬にでも、ロープにでもなってやる。でもな・・・」

銃声がひとつ。

それがいつも世界のはじまり。

「死に顔だけは見せるな」


恐怖は終わったか。不安は消えたか。望んだ地はそこだったか。

夕陽が消える瞬間にだけ、誰かの声が聞こえる。
その音を銃声で消しながら、地獄を歩く屍。
天と地を結ぶ身体ひとつが、いつまでも踊り続ける。


あの日の冷えたカップの中が世界の終末。





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蛇足(反転)
リリカルすぎる抽象的すぎる萌えないの3拍子揃った暴君の語りでした…。
一回書きたかっただけだから…さ…。。
彼を殺さないと感情を想起する過去を殺せない。でもそれは師匠の絵図通り。
もっとドライだろうと思いつつも、2人の関係に夢見すぎですが。

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