killer7






師弟と部屋と赤い煙草。やっぱりサソリはサソリにしかなれない。全体的にR15くらい?
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Red Cigarette Jam



意識がはっきりと戻る前に口の中に血の味を感じて目を開けると、白い布の上にも赤黒いような跡が見えて、それが自分のものなのか別の人間のものなのかわからない。
ワンテンポ遅れて動く体を起こすとベッドの背に身を預け、手探りで煙草を探す。
サイドテーブルには倒れたグラスから零れたワインが乾きかけていて、煙草の数本がその中に浸っていた。

ベッドから少し離れたところに置いた椅子に腰掛けた男は、雑誌のページをめくりながら沈黙している。 右手に取ったカップを口元に近づけてから、カーティスはようやくこちらを向いた。

「動けるか」
「その気があればな」
「甘えるな」

ダンの銃を投げてよこし、自分はもとの姿勢に戻る。

「なんだ。まだ仕事があるのか」
「当たり前だ。お前が昨日手出しした山、あの始末はもともとお前に頼むつもりだった。言ったはずだろう?それをわざわざ自分から壊すとは、バカげてる」
「俺抜きで話を進めようとするからだ。糞野郎」
「それで、結果がそのザマか?」

ゆっくり首を振る男の白い髪が揺れる。ベッドの上以外に昨夜のなごりなど微塵も感じられない部屋が、射し込む光で白々しく浮かぶ。その光景に、一瞬だけ目が眩んだ。
手にとってみた煙草はやはりとても吸えるものではなく、そのまま床に捨てる。

「制裁のつもりだったか?やるんなら手ぇ抜くな。それと、もっとマシな人間を使え」

嘲笑と吐き捨てられた言葉に、カーティスは真顔のまま眉だけを上げる。

「期待に添えなくて申し訳なかったな。悪かったから、いいかげんそこをどけ。家政婦がベッドメイク出来なくて困っている」

その発言を無視して渡された銃の弾倉を確認すると、当然のように装填されている。
殺意すら失せるほどの余裕だ。

昨夜「大きなヤマ」とかいうくだらない遊びをこちらから出向いて壊してやったら、この男が物騒な姿で迎えにきた。 男は人形のように不自然な自然さで、最高のタイミングを逃さず現れる。
直前に敵も味方も関係なく始末して、ダンはいつも通りにその目の前に立ったはずだった。 忍びやかな鮮やかさを以て完璧でいることは責務だ。
だから男に向けようとした銃の先が、真横の壁に軽く触れた時は不覚にも動揺した。
障害物との目測を誤ることなどあるはずがない。
思わず視線が揺れ、その瞬間にはもう全てが終わっている。

比較的口径の小さな弾丸が腕を掠めるのと同時に、音もなく距離を詰められる。 銃を掴んだままのカーティスの拳が素早く的確に鳩尾にめり込んで、呻きながら後ずさった。 上げた顔の先にライフリングまで見えるような近さで銃口が突きつけられて、ようやく理解する。
この男は弾道を読むとかいう前に、行動の先を読んでいる。巫山戯た話だ。

あとは、だいたいいつも通りだっただろう。
ただ昨日はベッドにいる間中、カーティスは椅子に腰掛けて足を組んだ姿勢のまま本を読んでいたので、相手はこの男ではなかったようだが。
背後で部屋の鍵が閉まる音だけが、今も耳に残っている。

「さっさともう一回始末をつけてこい」
「その言い方で俺が動くとでも思ってるのか?」
「個人的に、よく吠える犬は嫌いじゃないが」

雑誌を閉じると男はカップを持ったまま近づいてくる。
その左足が落ちていた煙草を踏んだ。
罵る言葉を聞きながら鉱石のように静止していた瞳は、光が通る時だけ透ける。

昨夜のパーティーは無粋な連中ばかりだった。
てっきり老人の相手かと思っていたがどうやら本人にその気がないらしく、人数だけ揃えた兵隊が馬鹿のように集まっていてうんざりした。
腕の傷に指を突っ込まれて、逆の腕で殴り倒し、足払いをかけられて床に片膝をつき、相手の顔面に頭突きを返す。 前方の相手に蹴りを食らわせながら、首に掴みかかってきた相手の指を折り、鼻の付け根を狙って潰す。
きっと自分は笑っている。酷く退屈だと思いながら。
暴力を振るうことと振るわれることは同じだ。どちらも一時の慰めだが、質の悪いものには悪酔いする。

何人かを殴り飛ばし、何度か壁に叩きつけられたが、いつベッドに移動したのか覚えていない。 快楽は無いより有った方がいいにしても、こんな水増ししたようなものなら安酒の方がマシだろう。
全てが稀薄な中で、このリボルバーをいつのまにかカーティスが持っていたことだけが身を焼かれるほど口惜しかった。
それだけで、身体の上にいる相手になど関係なく追いつめられる。
呼吸が乱れてその瞬間だけ、景色が光に消える。
カーティスは黙ったまま静かにそこに居て、ダンには一度も目を向けなかった。

「ここで吠えるのも外で吠えるのも変わらないだろう?気分転換した方がいい」
「貴様が死ねば、少しは気分転換になるかもな」

人質にされていた銃の手応えを確かめる。やはりカーティスの手には似合わなかった黒。
ベッドの横に立った男はほんの少し首を傾ける。

「面白いな。本気でそう思ってるのか」
「知ってるだろうが」
「では、これは知っているか?」

空いている方の手が、乾いた血で固まったこめかみのあたりの髪に触れる。
その白い顔が笑顔を浮かべるのを見て吐き気がした。

「私は、お前が死ねば泣くだろう」

白々しいほど真っ直ぐこちらを見て、この世の悲劇を語る瞳はすこしも動かない。
こいつは、本当に人間なのだろうか。
これが本当に人間だとしたら、他のものはみな獲物[ゲーム]に過ぎないのも頷ける。

「貴様の与太はつまらん」
「お前は、私が死んだら泣いてくれるか?」

は、とダンは馬鹿にした声を上げた。白い男はそれすら意に介さず言葉を繋ぐ。

「執着も非道も、人間らしさだ。それを表現するのは、人として当然だろう?」

「違うな。そんなものは副産物だ。これが人間だなんてしたり顔で語るのは、老人の戯れ言だ。貴様に量れる程度の基準なんぞ、俺には無い。能無しの馬鹿どもは知らないがな」

今度はカーティスが馬鹿にした声を出す番だった。哀れむような視線で、ダンの手にある銃を見つめる。

「だったら今のお前は、満足しているのか?たとえお前の生が、お前の元になくても?」

「死期を早めたくなきゃ黙れ・・・糞ジジィが」

ベッドから降り立つと、立て付けが悪い床に立っているように体が傾く。
こんなにも濃い影を見せる部屋の中にもかかわらず、ここには匂いがない。
剥製のような男にはふさわしくても、他の者は生きられない、空調の効きすぎた部屋。

嫌でも連想する。この場所はひどく『あの部屋』と似ている。

眠りから覚めて行き着いた場所がここだとは、心底笑える話だ。
頭を振って落ちていた服を拾いあげ、喉の奥に唾を飲み込んだがたいした効果はなかった。
床の煙草は踏みつけられて、身を捻りながら葉を散らしている。

良い生徒だよ、お前は。満足げに呟く声が聞こえる。
この白い男は部屋の番人だ。
あの忌々しい老人や訳知り顔の男と同じように、他人の人生を絡め取る種類の生物。

「私たちは分かり合う必要があるようだ。いつか、邪魔の入らない場所でゆっくり話でもしよう」

「貴様が呆ける前に、今の台詞を後悔させてやる」

「それが、負け犬の常套句と言うんだ」

カーティスは凍った瞳のまま笑う。
自分では掴めないものを見せられることはよくあるが、だからと言って慣れることもない。
糞ったれなことにこの男は、それをよく知っているのだろう。
夕食までには戻ってこい。鍵は開けておく。
保護者のようなことを言って、男は不快な余裕を残しながら扉の外へと出ていった。

急激に部屋の温度が変わる。床には蹴散らされた煙草の残骸が木の葉のようだ。 アルコールで赤く染まったそれは、かつての姿を残したまま、もうなんの役にも立たないだろう。

だが、それが何だというんだ?

火がつかなくても踏まれても形を残していなくても、その存在が自分自身であったことは消えない。 小さく砕かれた葉のひとかけらまで、それはすべて、自分だけのものだ。

部屋の陰影が薄くなり窓に目を向けると、厚く白い雲が太陽を遮りながら移動していく。
日射しが気まぐれにやわらいで、ダンは木陰に辿り着いた動物のようにあくびをしながら、ベッドを見やった。
この家の家政婦にだけは、天地がひっくり返ってもなりたくないものだ。







蛇足
サソリと蛙の話。
泳げないサソリは蛙の背に乗せてもらい、池を渡る。
しかし池の真ん中でサソリは蛙を刺してしまう。沈みながら蛙が問う。
「自分も死んでしまうのになぜ?」「わかっているがやめられない。これが俺の性なんだ」

サソリばっかりキラー7。中でも特に顕著な2人。すべてが過剰。でもやめられない。大好きです。ていうか長!! 暴君に関しては悲愴より図太さを際だたせてみたい今日この頃。

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