killer7
人格


むかし大事にしていた猫の人形はどこへやったのだっけ。

たしか母親がいなくなる前の年に買い与えてくれたもので、柔らかい手触りと光沢のある白い毛並みが綺麗だった。
思い出したくないと思っているうちに、本当に忘れてしまった。
きっと自分が気が付いていないだけで、そうやって永遠に失ってしまった記憶は沢山あるのだろう。
右腕の傷は相変わらず一定のリズムで血を体外に押し出している。
指先を伝って赤い一筋が床へ落ち続けている。その様子を見ているうちに思い出したのだ。

どこかで間違ったのだろうか。それともはじめから一本道だったのか。

前に会った初老の男は度のきつい眼鏡を押し上げて、楓の顔を見たとたんにこう吐き捨てた。

「お嬢ちゃんに売るものはないよ」

なんでも手に入ると評判の店。
腐った魚の匂いが立ちこめる裏道を抜けて、灰色のコンクリートに挟まれた坂を上った突き当たりにある木製の扉の奥で、男は色褪せた大小の箱の山に埋もれていた。

「買い物に来たんじゃないわ」
「だったら帰っとくれ。お嬢ちゃんみたいなのがいると、商売にならない」

楓は緩慢に首を傾げると右手に下げた銃の弾数を確かめる。男はその様子を見ているのかいないのか、箱の山をごそごそと動かしている。
「ほら」
言葉とともに楓の前に放られたのは薄手の白いコート。
「そんな格好じゃ襲ってくれと言ってるようなものだろう」
楓は首を振る。男は歯並びの良い歯をみせて笑う。
「売るものならないが、それは餞別だよ。死んだ娘の持ち物だったんだ。受け取ってくれないか」
楓は首を振る。
男は眼鏡を外してボロ布で磨きながら話す。埃っぽい店内は霧がかかったように視界が悪い。

「ここにはなんでも揃っている。赤い靴の片方、使い古した歯ブラシの柄、本棚から外れた螺子、茜色の傘、死んだ母親、青い薬草、写真の走り書きなんかがね」
「お嬢ちゃん、ここに来るのは欲しい物がある人だけだよ」

男は背を向けて店の奥へ歩いていく。
楓がその後頭部に狙いを定める。

結局コートは受け取らなかった。身を守るものは特に必要ではない。
鈍い痛みと血が在ればなんとか今を保てる。なんとか、で十分だと楓は思う。

猫の人形はたぶん、楓が捨てたのだ。
いま持っていないものは、必要のない物だ。
そうやって身軽になって、いつか重力に影響されるこの身体もいらなくなるだろうか。
それともすでに、それも捨ててしまっているのだろうか。

腕の血は乾いてしまった。
楓はそれを残念そうに眺めると、わずかに首を傾げた。





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蛇足(反転)
前にも増してこれのどこがキラ7なのか。
もういいんだ、近づけるのは無理だから…。この店はきっと記憶も売ってるんだ…。
自分の創作と二次を合体させないでください。

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