killer7
食既


似合わねえな。
と、男はことさらしみじみ言うと、自らの愛銃に弾を一発込めた。
男の座るソファの隣には背の低いテーブルが置かれ、その上に整然と並べられた銃弾は護衛兵のように背筋を伸ばして立っている。
自分が地面から生えたように真っ直ぐに立つことを覚えてから、もうずいぶんと日が経った。

ガルシアンはソファの肘掛け部分に腰を下ろすと男の手元を眺める。
ソファに深く腰掛けている男の視線は、ゆっくり手元とテーブルの間を行き来し、弾丸をひとつ手に取るとそれを味わうように指の間で回す。

「なんで呼ばなかった?」

口調は世間話をするような軽いものだったが、それは不吉の前兆だ。ダン・スミスに限っては。 ガルシアンは足を組む。

「呼ぶ必要がなかった」

男の手の中にあった弾丸がシリンダーに収まる。チッという小さな音。

「そんな間抜けな返り血浴びて、よく言えたもんだな?」

白いスーツの脛あたりに滲む赤が、ガルシアンの表情を一瞬だけ歪ませた。 だがガルシアンよりも低い位置に座っている男に、その変化はわからなかっただろう。

たとえガルシアンが鉛を埋め込まなくとも、いずれは消えてしまいそうに儚かった、女の細い身体が脳裏に映る。

身に降りかかった「よくある不幸」を受け止めきれず、自らの生まれた町を呪いで沈めた女。 街中の他人から受けた仕打ちを、彼女はそっくりそのまま返すことを選んだ。 自分を餌にして権力を得た彼女は町を買い、そして徹底的に破壊した。
生きているものは全て。

水という水から立ち上る臭気と住人だったものの残骸の中で、女は立っていた。

月が淡い光をこぼす工場跡地に、不自然なほどにまっすぐな女の姿が浮かぶ。 見事なまでに赤く染め上げた指を伸ばし、女はガルシアンに囁いた。

ねぇ、あなたがどうしてここへ来たのか知っている?

それはね、あなたが私とそっくりだからよ

私を殺したら、あなたは次に、どこへ行くのかしらね?

女は預言を吐き、見たことのない花のように笑う。
そして、喉を引き裂いた。
自らが肉塊に変えた人々の中に倒れこむ女に歩み寄ると、ガルシアンはその額に鉛を撃ち込む。
女の跳ねた左手から血が一筋伸びて、白いスーツに染みをつけた。

似合わねぇ、と男が吐き捨てる。ガルシアンは僅かに目を伏せた。

「勝てない賭はしない主義だ。問題ない」
「問題ない、か」

男の手がテーブルに伸びる。弾丸が鈍く光る。
それは帰り道に見上げた、死にかけた月の光に似ていた。

「だったらその面はなんだ?嫌みのつもりか?」
「なにかついてるか?」
「忠告だ」
「親切だな」
「てめえの為だとでも思うか?」

ガチリ、と不格好な音をさせて最後の弾が弾倉に吸い込まれる。
女の笑った顎が鳴る。

男は頭を上げるとガルシアンへ顔を向けた。
その黒い瞳の奥に女の顔が映る。
わからないのは、最期の顔。
まるで花のような。

「上手く騙してるつもりなんだろ?その芝居は楽しいか?」
「なんのことだ」
「いまのてめえが本当はどんな顔をしてるのか、知ってるのか?」

目を細めた漆黒の男は口の端を上げる。
見慣れたその顔は誰かに似ている。

誰にも向けられない笑顔。

あの女も。この男も。
なぜ笑う?
その笑顔の意味がわからない。

そっくりよ
世界に溶け込む柔らかな声。

ガルシアンは血の痕を見つめた。喉が妙に渇く。
淡い光を発していた月は、どこへいった?

「お前は、何を知っている?・・・それを、いつ知った?」
「あんたが、一番よく知ってるはずだ」

素っ気なく答えると男はガルシアンの前に立ち、首を少しだけ傾ける。
約束された右手の黒。その姿は歪みを帯びた漆黒の稲妻のように、世界を裂く。

「死んだフリはやめろ。俺は騙せない」
「そんなに・・・似合わないか?」

この顔が。表情が。姿勢が。行動が。
全てが。

黒い男は不遜に笑う。
わからなかった女の笑顔。男の笑み。

だが。
最初から、あの女は答えを知っていたのだ。
この男は、世界一正直だ。

笑顔だけが、世界の全てを知っている。
そこには、全てがある。

痩せた月が消えていく。もう、照らすものはなにもない。

あるのは、笑顔という名の闇だけだ。

星すら見えない、遙かに覆う深淵な闇。
そこには、全てがない。

ガルシアンは顔を上げた。そして、小さく頷く。

「・・・わかった」
「なにが」
「お互い、狙うなら頭だってことだ」

その答えに、ダン・スミスは顔を伏せて低く笑う。
自分自身には決して届かない弾丸を収めた銃が揺れる。

「だから俺は・・・てめえが嫌いじゃないぜ」

自分がいまどんな顔をしているのか、ガルシアンにはわからなかった。
気分は、それほど悪くなかった。

月が隠れれば、そこには影しか残らない。
だが、影が去れば、そこにはまた月が生まれるのだろう。
そういうものだ。

ガルシアン・スミスは笑わない。





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蛇足(反転)
終わりがまた始めに繋がって、ぐるぐる回り続けるのが世界なら。
全てを認めて受け入れて。そこからまた始まるのではないかと。考えたり考えなかったり。
終わりのない輪の中で全身全霊で足掻く彼らを愛しています。

というわけでひとまず連作(という名の私的キラ7世界観解説)は終了。個人的にはとても楽しかったです。 ここまで読んで頂いた方すべてに感謝!ありがとうございました!
今回出せなかったメンバーについても、そのうち書きたい…です。

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