29. ブレス

「なぁテツ、それ貸してくんない?」
バンの指さしているものの先を見て、テツは眉を寄せる。
「先輩、調書書きに飽きたからって冗談言わないでください」
「冗談じゃないって!本当に俺もそれ使ってみたいんだもん。…まぁ、調書は飽きたけど」
「やっぱり…。でもダメですよ、コレは普通のDアームズと違うんですから」
テツはいつでも左手首にしているブレスロットルを守るように右手で掴む。
「なんだよぉ、実戦では使わないってば。試すだけ!」
「わたしもちょっと興味あるわね」
コーヒーを2人に渡しながらジャスミンがテツの手首をのぞき込む。
「ちょ、ちょっとジャスミンさんまで…あ、先輩無理に取ろうとしないでくださいよ!なんでこんな時に限ってホージーさんもセンさんもいないんですかぁ!」
テツがツッコミ役の不在を嘆いたところで、当の本人達に聞こえるはずもない。ジャスミンは自分だけ緑茶をすすりながらテツに提案する。
「一度貸してあげたら?そうしたらバンも満足するでしょ」
「そうだそうだ、ジャスミンもっと言ってやってよ!」
「これは特凶の身分を証明するものでもあるんですよ。そう軽々しく貸せませんて」
「バレなきゃ大丈夫だって。今だけなんだし。なぁジャスミン?」
「私、貝より口の堅い女って言われてるのよ」
テツはしばらく黙っていたが、交互に2人の顔を見ながら渋々右手を手首から離す。
「……ホントに今だけですからね、先輩」
「え!いいの?やった!」
ガッツポーズをするバンに根負けしたテツが溜息をつきながらブレスロットルを渡す。
「ちゃんと使い方は守ってくださいね」
テツがいくつか注意点を教えると、物珍しげに左手首を眺めていたバンが拍子抜けをした顔をする。
「へー、意外と簡単なんだな。特凶の武器だからもっと複雑かと思ってたぜ」
「ナンセンス。複雑な働きを簡潔なシステムで使えるものほど優秀なんですよ」
「確かに、それは言えてるわ。落語も、言葉にシンプルな美しさがあるものね」
「スイマセン、そっちの例えはよく分からないんですが…。ともかく、最小限の使い方だけしてください」
「おっけー、任せとけ!」
バンがデカルームの真ん中あたりへ進み出て身構えると同時に、テツがジャスミンを部屋の隅へ無理矢理連れていく。
「あらら?なにかあるの?」
「たぶん、離れていた方が安全かと思いますので…」
「いくぜ!正拳アクセル……っうわぁ!!」
スロットルを回して突きの構えをしたところまではテツと変わらなかったが、そのまま勢いよく腕を振り回される形になり、バンは地球署中に響くような音をたててデスクにつっこんだ。テツが肩を竦めてジャスミンを見る。
「システムはシンプル。ただし使いこなすにはそれなりの鍛錬が必要なんです」
「特凶は1日にしてならず、か」
ジャスミンは納得したように頷きながらテツとともに、デスクと倒れた椅子の間に埋もれているバンを救出に向かった。


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