40. メンテナンス 地球署近くの路上に、この辺りでは有名なおでんの屋台がある。 その屋台ののれんの内側から、青い尻尾がのぞいていた。 「おやじ、一本つけてくれ」 屋台の主人はあいよ、と返事をすると、そちらのお客さんは?とドギーの後ろに声をかける。 「オレはビール。あとは適当に見つくろってくれ」 「久しぶりだな」 ドギーは入ってきたブンターに席を空ける。 「スワンにここだって聞いてな。…あの若造たちは上手くやってるか」 「ああ、順調だ。あのときは、お前のおかげで助かった。礼を言うよ」 「まったく、やつらは荒削りだ。だがまぁ、お前の選ぶ連中を見てると、飽きないもんだ」 ドギーは笑うと、ブンターのコップにビールを注ぐ。 「地球に来たのはいつだ?今回はゆっくりしていけるのか?」 「明日には帰る。また出来の悪い新人を鍛えなきゃならんからな」 「スワンが寂しがる」 「バカ言うな。ここはにぎやかなもんじゃないか」 ブンターはビールを一息で飲み干す。目の前に店主が盛りつけたおでんが置かれた。 「そういえば、お前のクラレンス、一度くらいスワンにメンテナンスを頼んだらどうだ?」 「オレにもそれぐらい出来るさ。なんだ、オレの腕じゃ不安か?」 「そうじゃないさ。だが、こうしてると昔を思い出してな。3人で、いろいろ無茶もやったもんだ。スワンだって、お前になら頼まれたいと思うだろう」 「何言ってやがる」 ドギーはクク、と小さく笑って、自分の酒に口を付ける。 「あのとき、お前がスワンに言った言葉が忘れられなくて…」 ブンターはコップを倒しそうになりながら立ち上がる。 「おい!何年前の話をしてるんだ!」 「まぁまぁ、誰だって若いときはあるモノよ?」 後ろから声が聞こえて、2人は同時に振り返る。 「おじさん、はんぺんと玉子とちくわね。あ、あと昆布も」 スワンは2人の間に座ると、両方の顔を眺める。 「懐かしいわねぇ。このメンバーが顔を合わせるなんて、私たちが地球に来る前以来かしら?」 「スワン、相変わらずこいつのお守りは大変だろう?いい年して、若い連中に混ざって無茶しようとするからな」 「あら?無茶はあなただってお得意でしょ?」 ドギーはスワンにコップを渡す。 「オレたちの無茶につきあうスワンだって、相当だと思うがな」 「ドギー、それくらい勤まらなきゃ、宇宙警察なんてやってられないわよ」 ブンターはスワンにビールを注ぎながらしみじみ言う。 「相変わらず、お前はいい女だな」 ドギーは2人を見ながら顎を撫でる。 「何だったかな?ブンター。お前が別れ際にスワンに言ったセリフ。確か、『機械のメンテナンスなら誰でも出来る。だが、オレの心をメンテナンス出来るのはおまえ…』」 「ドギー!てめぇ!」 「ちょっとちょっとブンター!やめなさいよ!ドギーも!顔に出てないけど酔ってるわね?」 「お客さん、暴れてもいいが皿割らないでくれよ」 店主の言葉も虚しく、もみ合う3人の間で白い皿が派手な音を立てた。 秋の月が上空で、小さく光っている。 ☆ ブラウザバックでお戻り下さい ☆
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