シュガーレス・ナイト 「ウメコ、そっちは出来た?」 「ん〜まだ…もうちょっとかかりそうかも…」 「やっぱり、男どものマフラーを全部編むのは無理があるかしらね?仕事も年末で忙しいし。バンは調書の山で倒れこんでたわよ。センちゃんは酔っぱらいに絡まれてたし、ホージーとテツは歳末パトロールに追われてるしね」 「でもここまで来たら仕上げたいよー。ねぇジャスミン、ここの編み方教えて〜。もう!こんなパターン編むって言ったのだれよぉ〜?!」 「・・・・・・ウメコでしょ」 「お前たち、ここは自分の部屋じゃないぞ」 デカルームに入ってきたドギーの目に、デスクの上を埋め尽くした色とりどりの毛糸の山が映った。その山に埋もれるようにして、ウメコとジャスミンが必死に編み物をしている。 「すみませんボス。もうすぐ署内のクリスマスパーティなので、それまでに仕上げたくて・・・」 「スワンさんも、ボスとみんなにプレゼントを用意するって言ってましたよ!」 「ああ、そういえばバンたちもなにか選んでいたようだな。楽しみにするのはいいが、仕事も片づけておいてくれ」 2人が返事をしたところで、バンとセンがデカルームに戻ってきた。 「うっわー、やってるやってる。ウメコ頑張ってるねぇ」 「私がバンとホージーに。センちゃんとテツの分がウメコよ。ね?」 ジャスミンの含みのある言い方に、ウメコは毛糸の中に顔を埋めてしまった。ジャスミンをバシバシ叩いているウメコに首を傾げると、センはバンの肩を軽く叩く。 「オレたちも、ちゃんと考えてるんだよね」 「もちろん!当日はここで簡単にしかパーティ出来ないけど、ケーキも予約したし、鳥も買ったし」 「両方、やってくれたのはホージーだけどね。オレたちは当日の買い出し部隊」 「あら、なんだかみんな楽しそうね〜。ちょっと休憩してお茶でも飲まない?」 スワンが人数分のカップを載せたトレイを運んできた。センとバンがそれを受け取り、全員に配る。 「あれ?スワンさん、なんかこれ、いつもの紅茶と違くない?」 「ホントだ〜。いい香り!」 バンとウメコの反応に、スワンはにっこり笑うとカップを少し上げた。 「これはクリスマスティーっていう、この時期だけの紅茶なの。メーカーによっていろんな風味があるんだけど、これは私のオリジナルブレンドよ」 「なるほど。オレンジピールとシナモンの香りが効いていて美味しいですねぇ」 センが頷きながら、スワンが紅茶と一緒に持ってきたクッキーを囓る。スワンはデスクの上に目を向けると、首を傾げた。 「ふたりとも、すごい量の毛糸ね?」 「ああ、これバンたちへのプレゼントなんです。スワンさんもボスに用意してるんですよね?」 みんなの視線が自然にスワンに集まる。スワンは不思議そうな顔でみんなを見返す。 「えーと、今日って何日だったかしら?最近急ぎの仕事が多くて」 「クリスマスイブまでは、あと一週間切ってますよ」 「あらホント?やだぁ、わたし勘違いしてたみたい」 スワンは大慌てでデカルームから出ていく。ウメコが心配顔でジャスミンを見る。 「スワンさん、もしかしてボスへのプレゼントまだ用意してなかったのかなぁ…」 「手作りにするって言ってたのに、間に合うのかしら」 ジャスミンがそう言ったとたん、ボスの席から鼻をすするような音が聞こえた。 「え、ボス?泣いてるんですか!?」 「スワンさんなら、ちゃんと用意してくれますよ!」 「いや、このシナモンの香りが少し苦手で…」 ボスの言葉が終わらないうちに、センが身を乗り出して言う。 「なんなら、オレがマフラーでも編みますから!オレ結構器用なんで自信ありますよ」 「センちゃん、それ嬉しいかどうか微妙だよ…」 「あ、いま編んでるこれ、ボス用にしてもいいですよ?」 「えージャスミン、それはオレたちにって言ってたじゃん!」 「・・・お前たち、わかってやってるだろ」 ボスの溜息で、宙に舞っていた赤い毛糸の一端がふわりと浮いた。
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